理系学生日記

おまえはいつまで学生気分なのか

ベクトル空間と線形写像

同型写像

まず、ベクトル空間の同型は次のように定義されます。

2 つのベクトル空間 \mathbf{V}\mathbf{W} は、\mathbf{V}から\mathbf{W}への写像\Phiが存在して、次の性質を満たすとき同型であるという。

  1. \Phi\mathbf{V}から\mathbf{W}への1対1写像
  2. \Phi(\mathbf{x}+\mathbf{y})=\Phi(\mathbf{x})+\Phi(\mathbf{y})\hspace{1cm}(\mathbf{x},\mathbf{y}\in\mathbf{V})
  3. \Phi(\mathbf{\alpha \mathbf{x}})=\alpha\Phi(\mathbf{x})

定義から、\Phiは1対1なので、\mathbf{W}から\mathbf{V}への逆写像\Phi^{-1}も存在しています。
また、2 つのベクトル空間\mathbf{V}\mathbf{W}が同型であることは、一般に\mathbf{V}\cong \mathbf{W}で表します。

\mathbf{V}\mathbf{W}が同型のとき、2 つの空間は写像\Phiで移り合い、本質的に区別することはできないので、「同じ構造を持つ」という言い方もされます。例えば\mathbf{V}の基底は、\Phiで移った先の\mathbf{W}の中でも基底になります。

有限次元の 2 つのベクトル空間が同じ構造を持つか否かは、驚くべきことに、次元のみで決まってしまいます。

有限次元のベクトル空間\mathbf{V}\mathbf{W}が同型となるための必要十分条件は、
\mathrm{dim}\mathbf{V}=\mathrm{dim}\mathbf{W}
が成り立つことである。

部分空間

ベクトル空間\mathbf{V}の部分集合\mathbf{U}

  1. \mathbf{x},\mathbf{y}\in\mathbf{U}\Rightarrow \mathbf{x}+\mathbf{y}\in \mathbf{U}
  2. \alpha \in \mathbf{R},\mathbf{x}\in\mathbf{U}\Rightarrow \alpha\mathbf{x}\in\mathbf{U}

を満たすとき、\mathbf{U}\mathbf{V}の部分空間という。

要するに\mathbf{V}の持つベクトル空間の構造が\mathbf{U}だけで閉じているのであれば、\mathbf{U}\mathbf{V}の部分空間ということですね。当然ながら、\mathrm{dim}\mathbf{U}\leq \mathrm{dim}\mathbf{V}です。

ここで、\mathrm{dim}\mathbf{U}=kとして、\mathbf{U}の基底を\left\{ \mathbf{e_1},\mathbf{e_2},\cdots,\mathbf{e_k} \right\}で表したとしましょう。もし、k< \mathrm{dim}\mathbf{V}=nなのであれば、\mathbf{e_1},\mathbf{e_2},\cdots,\mathbf{e_k}の一次結合として表せられない元\mathbf{e_i}\in \mathbf{V}\;(k+1\leq i \leq n)が存在します。
このとき、これらの元の一次結合として表せる元全体は、\mathbf{V}の部分空間となり、これを\bar{U}と表すと、\mathrm{dim}\bar{\mathbf{U}}=n-kとなります。このとき、\mathbf{V}=\mathbf{U}\bigoplus \bar{\mathbf{U}}と書き、\mathbf{V}\mathbf{U}\bar{\mathbf{U}}の直和であるといいます。

線形写像

同型写像の条件のうち、1対1写像という条件を除いたものが線型写像の定義になります。

2 つのベクトル空間 \mathbf{V}から\mathbf{W}への写像Tが、

  1. T(\mathbf{x}+\mathbf{y})=T(\mathbf{x})+T(\mathbf{y})
  2. T(\mathbf{\alpha \mathbf{x}})=\alpha T(\mathbf{x})

を満たすとき、T\mathbf{V}から\mathbf{W}の線型写像という。

有限次元の場合、同型写像であれば次元によってベクトル空間が同じ構造を持つかが決定されますが、線型写像の場合は階数によって構造が決定されます。ここで、「階数」rは、

  1. \mathbf{V}\mathbf{W}にそれぞれ次元rの部分空間\mathbf{U}\mathbf{S}があって、T\mathbf{U}から\mathbf{S}への同型写像となっている
  2. \mathbf{V}の部分空間\bar{\mathbf{U}}があって、\forall \bar{\mathbf{x}}\in\bar{\mathbf{U}},T(\bar{\mathbf{x}})=\mathbf{0}
  3. \mathbf{V}=\mathbf{U}\bigoplus \bar{\mathbf{U}}

となるようなrのことです。
これらの式から分かるように、当然ながら0\leq r\leq \mathrm{Min}(n,m)ですね。

この階数が重要な役割を果たすことは、以下のことから分かります。

階数の重要性

2 つのベクトル空間\mathbf{V}\mathbf{W}に対し、以下のような線型写像T,T_1を考えます。

  • T:\mathbf{U}\bigoplus\bar{\mathbf{U}}\Rightarrow S\subset W\;(\mathbf{U}\cong\mathbf{S}
  • T_1:\mathbf{U_1}\bigoplus\bar{\mathbf{U_1}}\Rightarrow S_1\subset W\;(\mathbf{U_1}\cong\mathbf{S_1}]

ここで、\mathrm{dim}U=\mathrm{dim}U_1=rとします。

この次元の仮定から、\mathbf{U}から\mathbf{U_1}への同型写像\varphiが存在することが分かります。そして、この\varphi自体をTおよびT_1で移せば、\mathbf{S}から\mathbf{S_1}への同型写像\psiが定義されます(同型と言い切れるのは、\mathbf{U}\cong\mathbf{S}\mathbf{U_1}\cong\mathbf{S_1}、および、\mathrm{dim}\mathbf{U}=\mathrm{dim}\mathbf{U_1}=rからですね)。
同様に、\bar{\mathbf{U}}から\bar{\mathbf{U_1}}への同型写像\bar{\varphi}\bar{\mathbf{S}}から\bar{\mathbf{S_1}}への同型写像\bar{\psi}を考えると、\varphi\bar{\varphi}によって\mathbf{V}から\mathbf{V}への同型写像\Phiが得られるとともに、\psi\bar{\psi}によっても\mathbf{V}から\mathbf{V}への同型写像\Psiが得られます。
\bar{\varphi}\bar{\psi}は零写像なので、結局 \Phi\Psiによって、TT_1に映し出されており、両者の構造は本質的に同じと考えてよいということになります。

像と核

\mathbf{V}から\mathbf{W}への写像をT、それぞれの次元をn,mとします。このとき、Tの像空間\mathrm{Im}T
\mathrm{Im}T=\left\{\mathbf{y}|\exists \mathbf{x}\in\mathbf{V}, \mathbf{y}=T(\mathbf{x})\right\}
、その次元をrと定義すると、これは\mathbf{W}の部分空間になっています。

Tの核\mathrm{Ker}T=\left{\mathbf{x}|\mathbf{x}\in \mathbf{V}, T(\mathbf{x})=\mathbf{0}\right\}を定義すると、\mathrm{Ker}T\mathbf{W}の部分空間になっています。さらに、\mathbf{V}=\mathbf{U}\bigoplus \mathrm{Ker}Tとなるような、適当な\mathbf{U}を選ぶことができます。

\mathbf{U}の次元と基底をそれぞれs\left{\mathbf{e_1},\mathbf{e_2},\cdots,\mathbf{e_s}\right\}\mathrm{Ker}Tの次元をn-s,\left{\mathbf{e_{s+1}},\mathbf{e_{s+2}},\cdots,\mathbf{e_n}\right\}とすると、\mathbf{V}の任意の元\mathbf{x}
\mathbf{x}=\sum_{i=1}^n \alpha_i\mathbf{e}_i
と表すことができ、核の定義よりT(\mathbf{e_i})=\mathbf{0}\;(s_1\leq i \leq n)なので、
T(\mathbf{x})=\sum_{i=1}^s \alpha_i\mathbf{e}_i
となります。つまり、\mathrm{Im}T=T(\mathbf(U))であり、その次元はs=\mathrm{dim}\;\mathrm{Im}T=rということになります。

まとめると、\mathrm{dim}\;\mathrm{Im}T=r\mathrm{dim}\;\mathrm{Ker}T=n-rとなり、\mathrm{dim}\;\mathrm{Ker}T+\mathrm{dim}\;\mathrm{Im}T=nということで、大変美しいですね。