理系学生日記

おまえはいつまで学生気分なのか

正規作用素に関する十分性の証明

\mathbf{V}から\mathbf{V}への線形作用素Tが固有値問題の解となるための必要十分条件は TT^{*}=T^{*}Tが成り立つことである。

を証明しましょう。ちなみに、このような関係を満たす作用素Tを正規作用素と言います。


あいかわらず tex 記法は時間がかかるので、今日は十分性の証明です。

十分性

まず、TT^{*}=T^{*}T が成り立ったと仮定しましょう。
Tは線形作用素であるので固有値\exists \lambda_1\in\mathbf{C}を持ちます。そして、その固有空間E(\lambda_1)は複素ベクトル空間を構成します。
ここで、\forall \mathbf{x}\in E(\lambda_1)に対して、T(T^*\mathbf{x})=T^*(T\mathbf{x})=T^*(\lambda_1\mathbf{x})=\lambda_1(T^*\mathbf{x})となるので、T^*\mathbf{x}\in E(\lambda_1)
一方で、T^*も線形作用素なので、固有値\exists \mu_1\in\mathbf{C}を持ちます。この固有ベクトルを\mathbf{e_1}とすると、定義からT^*\mathbf{e_1}=\mu_1\mathbf{e_1}。ここで、上述の通り\mathbf{e_1}\in E(\lambda_1)であるから、T\mathbf{e_1}=\lambda_1\mathbf{e_1}。つまり、TT^*は同じ固有ベクトルを持つことになります。


(T\mathbf{x},\mathbf{y})=(\mathbf{x},T^*\mathbf{y})について、\mathbf{y}=\mathbf{e_1}を代入すると、(T\mathbf{x},\mathbf{e_1})=(\mathbf{x},\mu_1\mathbf{e_1})=\bar{\mu_1}(\mathbf{x,e_1})
ここで、\alpha\mathbf{e_1}\;(\alpha\in\mathbf{C})の形のベクトル全体からなる1次元の部分空間を\mathbf{C}\mathbf{e_1}と書くことにし、\mathbf{V}=\mathbf{C}\mathbf{e_1}\bigoplus (\mathbf{C}\mathbf{e_1})^{\bot}と直交分解してみます。このとき、\forall \mathbf{x}\in(\mathbf{C}\mathbf{e_1})^{\bot}に対して(T\mathbf{x},\mathbf{e_1})=0だから、上式の(T\mathbf{x},\mathbf{e_1})=0となり、T\mathbf{x}\in (\mathbf{C}\mathbf{e_1})^{\bot}が示されることになります。


次に、(T\mathbf{x},\mathbf{y})=(\mathbf{x},T^*\mathbf{y})について、\mathbf{x}=\mathbf{e_1}を代入してみましょう。
すると、(T\mathbf{e_1},\mathbf{y})=(\lambda\mathbf{e_1},\mathbf{y})=\lambda(\mathbf{e_1},\mathbf{y})となります。ここで同様に\mathbf{V}\mathbf{V}=\mathbf{C}\mathbf{e_1}\bigoplus(\mathbf{C}\mathbf{e_1})^{\bot}と直交分解すると、やっぱり\forall \mathbf{y}\in(\mathbf{C}\mathbf{e_1})^{\bot}に対して(\mathbf{y},T^*\mathbf{e_1})=0だから、T^*\mathbf{y}\in(\mathbf{C}\mathbf{e_1})^{\bot}となります。


以上より、T, T^*は双方ともに、(\mathbf{C}\mathbf{e_1})^{\bot}(\mathbf{C}\mathbf{e_1})^{\bot}に移していることがわかります。
(\mathbf{C}\mathbf{e_1})^{\bot}もベクトル空間であるから、この議論を再帰的に繰り返すことによって、\mathbf{V}=\bigoplus_{i=1}^{n}\mathbf{C}\mathbf{e_i}と直交分解されることになります。また、この\mathbf{e_i}\mathbf{e_i}=\frac 1{||\mathbf{e_i}||}\mathbf{e_i}と置き換えても、この式は明らかに成り立つことは当然ですね。
このとき、\{\mathbf{e_1},\mathbf{e_2},\cdots,\mathbf{e_n}\}T,T^*の固有ベクトルからなる正規直交基底となっており、T,T^*は固有値問題が成り立つ線形作用素と言えます。