今僕がやってるティーチング・アシスタント(TA)というと非常に稼ぎの悪いバイトでして、外部からこられる教師の方を案内した後、学部の学生と一緒にその講師の方の講義を拝聴しているわけなのですが、そこで「空気読め」とは何たるかを考えさせられる機会に第一種接近遭遇する機会があった。
大学生というか、これはおそらく小学校高学年で既に始まることだと思うのだけど、講師の方が「じゃぁ議論してください」とか言ったぐらいでは、議論というのは始まらないし、「意見がある人は手をあげてください」でも手は上がらない。いやもちろん、意見がない人間なんて、いるとしたら北極辺りで低温状態で生命機能を維持されている凍結猿人くらいだと思うのだけれど、それでも手は上がらないわけである。「ここで手を上げて目立ちてー」とかそういう功名心の盛んな方も混ざっておられると思うのだけれどここまで手が上がらないのは、別に手を上げるその消費カロリーが惜しいだとか、クラス全員が四十肩で肩があがりません!とかいう奇跡的状況が神の悪戯で起こっているわけじゃなく、たぶん、「ここで手をあげるとクラスの皆に目立ちたがり屋だと思われそうで嫌」であるとか、「成績上げるのに必死wwとか思われたくない」とか、そういう人々の思いが複雑に絡み合いながら、活気のない方向に一様収束しているのだと思われる。そこに颯爽と現われるのが太郎君(仮名)である。
そんな収束した状況を一気に切り裂く太郎君(仮名)なる鬼才がいたと。そういう話なのだが、太郎君(仮名)は積極果敢、勇猛果敢に手を挙げ、講師の方の「発表者に対して意見ないですか」の問いに対して「こうした方が良いと思うんですけどどうすか?」である。1 回じゃない、5回くらいやってる。ほかの人が手をあげない方向へと一様収束してる中、その太郎君(仮名)はその状況に納得してない、というより空気を読めていない。いや敢えて読んでいないのかもしれぬ。「おれの授業料27万を一円だって無駄にするものか!」という目的意識を貫いて、ほかの人より有意義に講義の時間を過ごそうとしているのかもしれない。すげーよ太郎君。全米が泣いた。
ただ、出るくいは打たれるじゃないけど、「俺たちが暗黙のうちに到達した収束状況を無下にするとはなんたる所業」とかそういう空気もやはり感じるわけで、客観的に見てる限りだと、太郎君にはどうやら友達がいない。こういう友達が出来ない状況そのものが、太郎君(仮名)を一様収束に巻き込もうとする自然の力になるんじゃないかと思われるが、それでも太郎君(仮名)は動じない。すげーよ太郎君(仮名)。全米が震撼した。
全員が太郎君(仮名)であるなら、本当に充実した講義になるんじゃね?とか思うものの、逆方向に状況は収束しているだけに太郎君(仮名)ははぐれメタル系キャラとしてクラス内で定着している模様。むげぇなぁと。世が世なら友達たくさんできるだろうに。空気が読めた上でその状況に負けまいとしてるなら、冗談抜きですごいと思う。