僕自身は、「他の人に任せる」というところが決定的に苦手であることを自覚しています。 これは10年近く自覚している自分の課題であって、緩やかに改善はしてきているんですが、それでもまだ足りない。 そんな悩みを1 on 1で相談した時に紹介いただいたのがこの本でした。
1993年発刊ということで歴史を感じる一方で、まぁ良くもまぁ自分の悩みをぶち当てているなと。
技術部門における「悪魔のサイクル」
この本でまず語られているのは、技術部門の課題です。
- テーマ数の増大に対して、常に技術者の補充が追いつかず、目先の日常業務に全員が追い回されるという工数不足問題
- 「新人を早く一年前の技術者に育て上げる」という若手技術者の能力開発問題
- 技術の高度化に伴う異質技術者からなるマトリックス組織が引き起こす、編成・仕事の分担や優先順位などのマネジメント問題
1993年の課題感というのは、約30年経った現在においても僕の中ではあまり変わっていません。 本の中で取り上げられる生々しい現場の声を引用すると、以下のようなものがあります。
- リーダーが忙しすぎて聴くにも聞けない(担当者)
- 突発対応に追いまくられ、いつもイライラしている(リーダー)
- なぜ、自分ばかりに負荷が偏るのか…(リーダー)
- 納得のいかないピーク応援、便利屋か…(担当者)
- 雑用ばかりで技術者らしい仕事をしていない(担当者)
- 「任せてくれ…」「またトラブルか…」(課長)
あぁ、あるよね…と思われる方も多いのではないでしょうか。
書籍中の図を私でも起こしてみましたが、いかが技術部門における悪循環であり、これは「悪魔のサイクル」と呼ばれています。
マネージャー、リーダーが急増した新人技術者を抱え、忙しさが続く中で、技術検討時間や指導育成時間を十分に取ることができず、 必然的にアウトプットの品質低下を招き、結果として技術者全員がトラブルシューティングに追い回されるという悪循環に巻き込まれている。
技術KI計画
このような課題に向き合った日本能率協会グループが、産学協同で生産性の研究を開始し、 その結果として生まれたのがKI計画1です。 この計画を実際に数十社で実践し構築・実証されたとされるのがこの本で取り上げられる「技術KI計画」でした。
悪魔のサイクルを断ち切るための「見える計画」
書籍の中では、「開発業務の効率化」という課題に向き合っても虚脱感しか残らなかったという事例が紹介されています。 本来技術部門が向き合うべきは「プロジェクトが計画通りに進まない」ことではないか。 そして、「複数の問題が複雑に絡み合う」悪魔のサイクルの最大の要因は「曖昧な計画」にあると結論づけています。
「見えた課題」の解決
一方で、「見積もり精度が悪かった」「目標が不明確だった」「コミュニケーションが悪かった」といった課題の解決を個人に依存していては 事態は解決しません。計画を通した「チームの解決行動」が伴わなければなりません。
要するに、悪魔のサイクルをもたらしていたのは以下の2つであった、というのが本を読んだ結果としての私の理解です。
- 見えない計画に起因する事前課題解決力の不足
- チームの知恵で個々人を補いチームとして解決行動を取れるようにするマネジメント力の不足
計画が決め手
「計画」とは何なのか、という検討をこれまで真剣にしてこなかったのですが、この書籍では以下のように位置付けていいます。
計画は「開発目標」と「人と組織と業務」をつなぐ鍵である
目標達成には必ず障害があり、事前に課題を解決することが計画に盛り込まれていなければ、業務もスムーズにいかないと。 そして現実はどうかというと、かなり厳しめに断じています。
- 皆が計画段階で考える前に「まず業務をこなすことでエネルギーを消耗している」
- 一番大切な技術課題を考え抜くという姿勢を失いつつあり、とても知的な技術者と言える状態ではない
計画の立て方
どうしても、計画はリーダーが立てがちなのですが、そうすべきではありません。
実行計画にマネージャー、リーダー、担当者、つまり人と組織の知的行為である知恵を盛り込むことが知的生産性にとっての 本質的な行為であると言えるのではないだろうか。
技術KI計画は抽象論に終始せず、かなり具体的に踏み込んだ「計画行為」を説いています。その中でも、以下に引用する計画における4つの壁と突破の原理は参考になりました。
問題点 | 突破の原理 |
---|---|
恒常的に日常業務に追い回され改善活動も進まない | 実行計画を通じて改善活動を開発業務に組み込む |
担当のかかえる技術課題、マネジメント課題が事前に見えない | 線引き日程から質と量を解決する中身計画の確立へ |
担当個人の問題解決になっておりチームプレーが発揮されない | 計画の場にチーム力を組み込み、問題解決を行う |
突発業務が日常化しており業務総量が把握できない | 突発業務を組み込んだ新しい業務総量管理の確立 |
スクラムの説くスプリントプランニングや、アイゼンハワー大統領の"Plans are worthless, but planning is everything."を想起させる内容ですね。
アウトプットからの逆算
計画は以下の順に進めます。
- 背景・目的・目標を設定
- アウトプットターゲットの設定
- アウトプットイメージの分解
- チームで着地点の共有
- 分解されたアウトプットイメージに基づき作業項目をブレークダウン
- ブレークダウンされた作業項目に論理性を持たせ、作戦ストーリーにする
ここにチームの知恵を入れるのが非常に大きなポイントでしょう。 個人で作業項目の付箋を貼りながら、その着手順をストーリーとして作っていくのは、スプリントプランニングでもよく行う行為かと感じます。
振り返ってみて
書籍を読んでから自身を振り返ってみた時、あぁ悪魔のサイクルにハマっているなという感じるところが多々ありました。例えば僕は、事前に洗い出せる課題を「見える化」しておらず、「やってみないとわからない」というマインドで進めてしまっていることが多々あります。
「アイデアがなければ計画を立てても意味がない」「事前に計画を詳細に立てることはできない」「やってみないとわからない」などという計画に対する安易な考えが横行しており、事前計画に対する理解が不十分であった。
また、計画行為を舐めているところもありました。もう少し真剣にチームで課題の有無、課題の掘り下げを行なってから、「手を動かす」ところに取り組むべきなのだろうなと。
- Knowledge Intensive Staff Innovation Plan↩