今年のぼくの物理学探訪の旅もこれが最後、
本書は「エレガントな宇宙」で紐理論を分かりやすく展開したブライアン・グリーンが、時間とは何か、空間とは何かという物理学者の疑問とその調査の現状を、古典物理学から現代物理学までの歴史とともに膨大なページ数で展開した上下巻の上巻となります。
ISBN:978-4-7942-1700-4:detail
ニュートンの時代では、万人が基準系とできるような絶対時間、絶対空間があると信じられてきました。しかしアインシュタインは、時間とは相対的なものであり、絶対時間はないことを示します。アインシュタインが示したのは、この世の中は 3 次元ではなく、時間を含めた 4 次元の時空であるということです。
位置を示す 3 次元と同様、4 次元の時空においても、座標上の移動は自由にできるものと考えられます。つまり、ぼくたちが前後左右に進めるように、ジャンプすれば垂直方向にも移動できるように、時間についても遡ることを妨げる数式はありません。ニュートンの運動法則にも、一般相対性理論においても、そして量子力学のシュレーディンガー方程式においても、時間は対称性を持ちます。どの方程式を見ても、「過去」と「未来」は平等に扱われます。
しかし、現実には、溢れた水は元に戻らず、割れた卵の破片は卵に戻らず、時間は一方向にしか流れません。なぜ時間は一方向にしか流れないのか、これが多くの人を引き付けて止まない物理学の大問題、時間の矢の問題です。
時間の矢の問題は、基本的には熱力学第二法則に行き着きます。熱力学第二法則、つまり、エントロピー増大の法則です。
盆に入った水よりもそのあたりに散らばった水の方がエントロピーは大きく、購入したままの卵の方が割れた卵のほうがエントロピーが大きい。そして熱力学第二法則は、エントロピーは「統計的には」大きくなる方向にしか動かないことを述べています。この方向性こそが、時間に一方向への矢印を付けているのではないかと。
エントロピーが大きくなっていくしかないのであれば、宇宙が始まったときのエントロピーは、今よりもずっと低かったと考えざるを得ません。このため、時間の矢の問題を扱う書籍はほぼ例外なく、宇宙誕生の仕組みに言及することになります。
宇宙誕生の話はきっと、下巻で詳しく語られるんだと思います。たのしみだなー。