理系学生日記

おまえはいつまで学生気分なのか

「新規事業の実践論」を読んだ

新規事業の実践論を読みました。

この本は、いわゆるスタートアップではなく「社内起業」に関する実践的なノウハウを扱ったものです。 勤める会社を飛び出して自ら事業を起こすのではなく、「所属する会社の中で新規事業を開発する」ためのノウハウを扱う本は珍しく、 事業オーナーから薦められていました。

新規事業開発とは「自分の頭で考えたことに、自分で顧客を見つけて、自分で商売にする」業務。

新規事業開発の実践論 「はじめに」から

スタートアップ企業ではなく「社内起業」することのメリット

スタートアップ企業として新規事業開発をするのではなく、「社内」で新規事業開発をすることのメリット。 最初に整理したかったことであり、他の事業オーナー(本書籍を紹介してくれた方とは別)からも頂いていた疑問がこちらです。

その点について、本書籍では第1章で以下のように明言しています。

日本がイノベーションを継続的に生み出すためには「社内起業」という形がもっとも合っている

その理由としていくつか挙げられているのですが、私の心に残ったのは以下でした。

  • 日本の労働者は手厚く守られており、会社をやめてまで起業をしない
  • 生活が揺らがないからこそ進んでリスクを取れる
  • 社会実装を実現しようとすると、日本においては大企業が圧倒的な力を発揮する

逆に、いわゆる技術で市場を開拓しようとする事業については以下のように述べられています。

いまの社会システムに大きく影響しない「先進産業領域で完結するテクノロジー分野」のイノベーションであれば、スピードやリスクを取れるスタートアップ企業が有利かもしれません。

失敗しても生活の揺らがない「安定」があるからこそ、99.7%が失敗すると言われる新規事業開発の中でリスクが取れる。 安定性の有無はある種、寝る間も惜しんで事業のことを考える"切迫感"から遠ざかってしまうようにも思えます。 一方でゆとりの有無こそが柔軟な発想と選択肢をもたらすようにも感じられ、このあたりはメリデメなんだろうと感じました。

新規事業のフェーズ

新規事業のフェーズについては、名称こそ異なるものの、そのエッセンスは起業の科学と変わらないように思えました。 新規事業開発は再現性がない分野であるとはよく言われますが、それでもある種のベストプラクティスができていることの証左のようにも感じます。

まず最初に顧客を探し、その顧客が持っている根深い課題を探す。そして、その課題を解決するためのソリューションを探す。 さらに、そうやって定義した「ソリューション仮説」が実施されるとたしかに課題が解決され、お金が支払われることを「実証」する。 その支払いが提供コストよりも大きく、顧客数を増やせば利益を生めるという計画を立て、世の中に出す。

世の中に出した後、何をどう目指していくのかという点では「起業の科学」よりもスコープが広いです。 特にユニットエコノミクス改善について、まずはCACの削減ではなくLTVの向上にこそ向かい合うべきというのはなるほどなと思いました。

社内起業の魔物

社内起業にスコープをあてた書籍であるが故に、社内起業の落とし穴が何かという点で語られていたことも興味深く読めました。

上司や競合と向かい合うのではなく、「顧客」に向かい合えという点が何度も語られます。 それはもちろんそうなのでしょうが、この本の良いところは、その上で「社内会議」とどう相対すべきかが実践的内容で語られていることです。

  • 新規事業を評価できるのは顧客だけであり、立ち上がってもいない事業を社内で「正しく評価する」ことはできない
  • 一方で、事業プランがよいものにもかかわらず社内会議を通過できない原因はほぼ100%、提案する側の準備不足が原因

このあたりは何度も繰り返し読みたい内容で、気になった方はぜひ書籍を手に取っていただきたいです。 社内会議というものの意思決定ロジックの構造、その上で攻略のために何を準備すべきかも、書籍の中で語られています。 この辺りは新規事業とは関係ない部分でも目に鱗の内容でした。