理系学生日記

おまえはいつまで学生気分なのか

タイムマネジメントによって人生をコントロールする試みは必然的に失敗する/「限りある時間の使い方」を読みました

「限りある時間の使い方」を読みました。

この本を知ったのは、生産性を高めれば高めるほどますます忙しくなる /「限りある時間の使い方」を読んだ - kakakakakku blogでした。 僕も効率的に生きたいと思っていますし、さまざまなタイムマネジメント術を試していたりしました。それでも、平日は業務に追われてなかなか自分の時間は取れず、休日は休日で溜まった家事や子供との時間によって、いつも焦燥感を抱いていました。

その中で以下のような内容は、その一文だけで心に刺さってきます。

  • 効率を上げれば上げるほどますます忙しくなる
  • 時間をコントロールしようとすればするほど時間のなさにストレスを感じる
  • 時間をコントロールするために完璧なスケジュールを作るとそれを邪魔する遅延や割り込みにストレスを感じてしまう

生産性を高めれば高めるほどますます忙しくなる /「限りある時間の使い方」を読んだ - kakakakakku blog

自分の時間の使い方について何かしらのヒントを得られるのではないか、それによって人生が少しでも変わるのではないか、そう思ってこの本を読みました。

タイムマネジメントによって人生をコントロールしようとする試みは必然的に失敗する

まずこの本では、タイムマネジメントを駆使して人生をコントロールしようとするのは「現実逃避」であると看破します。書籍ではニーチェを引用しています。

我々は生活に必要な以上に熱心に、夢中で日々の仕事に取り組んでいる。立ち止まって考える暇ができては困るからだ。世の中がこれほど忙しいのは、誰もが自分自身から逃避しているためだ

現実として、やりたいことを全部やる時間はありません。時間がないのだとしたら何かを諦めるしかありません。つまり、何に集中し何をやらないのかを意識的に選択しないといけません。 にも関わらず、「自分の限界」という現実から目を背けてはいないか。タイムマネジメントによって本当に大事なことをやり遂げて、「いつか」心に余裕ができるという幻想にしがみつき、現実から目を背けてはいないか、そうこの書籍は問いかけてきます。 あなたに必要なのは、すべてを効率的にこなそうとすることではなくすべてをこなそうという誘惑に打ち勝つことではないでしょうか、そういうメッセージが冒頭からずっと続きます。

「今」を大事にする

時間をコントロールしようとする態度は、「時間」を「道具」として見ています。今という時間は「理想的な未来」に辿り着くための手段だということです。でも僕たちの「現在」は、将来の幸せのための「手段」なんでしょうか。

この「今」という時間の連綿が人生であるはずなのに、その「今」が未来のための道具なのだとしたら、僕たちは「人生」を生きていると言えるのか。

時間を有効活用するあまりに、彼は人生を生きることができなくなるのだ

それが、この本の2つ目のメッセージのように受け取りました。

この書籍の中では、「今」という時間をどのように大事にしていくべきなのかということも語られています。 並外れたことをやろうとする抽象的で過剰な期待は捨てて、自分に与えられた時間をありのまま体験する。「こうあるべき」というプレッシャーから解放されて、今ここにいる自分と向き合う。

自分の限界を認めるとは、すなわち希望を捨てることだ。正しいやり方を身につければ、あるいはもっと頑張れば、どんな無謀なことも成しとげられるという希望。すべてを計画通りにコントロールし、あらゆる苦痛を避けたいという希望。そうした数々の希望の根底にある、いつか本当の人生が始まるんだという希望。今はまだリハーサルで、そのうち自信満々で人生本番を生きられるにちがいないという、途方もない希望。そんなものは、今すぐ捨てたほうがいい。

オリバー・バークマン. 限りある時間の使い方 (Japanese Edition) (p.227). Kindle 版.

過度な期待は捨て現実を受け入れて、何をしたら心が踊るのかを考えて今を大事に過ごしなさい、そういうメッセージを受け取りました。

読んでから

この本を読んで久しぶりに思い出したのが、スタンフォード大学卒業式でのスティーブ・ジョブズのスピーチです。ここでスティーブ・ジョブズは、「死」と「人生の有限性」について語っています。

youtu.be

この本の内容の多くは、この卒業式のスピーチと重なります。 自分の心に従って「今」を生きること、その積み重ねが人生になること。この辺りはぜひ動画の方も(できれば最初から)ご参照いただければと。この動画大好きなので。

読み終わって考えたのは、焦燥感を抱えながら毎日を過ごすのは勿体無いなということでした。長くてもわずか4,000週間程度の人生ですから、一つ一つの物事に心を躍らせながら、家族と一緒に過ごしたいものですね。

この書籍の中ではさまざまな偉人の言葉が登場するのですが、心に残ったものをいくつか引用しておきます。これらを眺めるだけでも、書籍の内容は粗方掴める気もします。

  • 人間が存在するとは、僕たちの存在が、有限の時間と分かち難く完全に結びついている (ハイデガー)
  • もしも人生が永遠に続くと考えるなら、自分の命が貴重だとは思わないだろうし、自分の時間を大切に使いたいという思いもなくなるはずだ (マーティン・ヘグルンド)
  • 無限の可能性で膨れ上がった未来の概念は、未来そのものよりも一層豊かであり、そしてこれこそ、所有よりも希望に、現実よりも夢に、より一層の魅力が見出される理由である (アンリ・ベルクソン)
    • この話は、未来の可能性を消したくなくて何を捨てるべきかを判断できず、ダメな先延ばしをしてしまっていないか、という文脈で登場します。
  • 目的志向の人間は、常に自身の行動の利害を未来へと先送りすることによって、その行動の不死性という怪しげな幻想にしがみついている (ジョン・メイナード・ケインズ)
  • ある老人がワインを飲み、満ち足りた気分になる。そのことに価値がないというのなら、生産も富もただの空虚な迷信に過ぎない。生産や富に意味があるのは、それが人に還元され、暮らしを楽しくしてくれる場合だけだ (シモーヌ・ド・ボーヴォワール)
  • 我々は人生のあらゆる瞬間の総体である (トマス・ウルフ)