理系学生日記

おまえはいつまで学生気分なのか

「Amazon Bedrock 生成AIアプリ開発入門」を読んだ

はじめに

「Amazon Bedrock 生成AIアプリ開発入門」は、Bedrockを中心とした生成AIアプリケーション開発の全体像を体系的に解説した入門書です。

僕自身、複数のプロジェクトでBedrockの構築をする必要が生じている一方で、現状の利用は構築したアプリからのAPI呼び出しにとどまってしまっています。このため、Amazon Bedrockの全体感や、AWSの他サービスとの連携方法について体系的に理解したいと考えていました。そのような中でこの本に出会ったという経緯です。

Amazon Bedrockと生成AI関連のAWSサービスの全体像を俯瞰できる

この本の特徴は、Bedrockの基本的な機能からKnowledge BasesやAgentsといったBedrock上のサービス、あるいはAuroraやStep Functions等との連携までを広く取り上げ、実践的な知識を体系的に解説している点です。特に、社内文書検索RAGアプリやAIエージェントの実装例を通じて、実際のユースケースに即した形で理解を深められる構成となっており、非常にありがたかったです。

また、Claude 3やLangChain、Amazon Qなど、最新の技術動向やツールについても触れられており、生成AI開発の現状を広く理解する助けとなりました。

「はじめに」で以下のように触れられているように、この書籍を以てBedrockが使いこなせるということにはなりません(し、そういう書籍自体あまりない)が、この書籍から得られた知識によってBedrockの全体像の理解は大きく進み、公式マニュアルの読み解きも相当容易になりそうです。

Bedrockのさまざまな機能をわかりやすく整理し、生成AIの初心者でもとっつきやすいように解説しています。 (略) 全体的に比較的易しい内容となっていますが、AWSやPythonについての初歩的な知識があることを前提としているため、これらの基本的な解説は網羅していません。

実務に役立つ知見とハンズオン

実務での活用を見据えた際に特に有益だったのは、BedrockのFine-tuningプロセス、IAM権限設計、そして閉域環境での構成方針について、AWS上での具体的なイメージを得られた点です。

Fine-tuningに関しては、現時点ですぐに実行を計画しているわけではないものの、「AWS上でFine-tuningを進めるにはどのような流れになるのか」について大まかな全体像を掴むことができました。例えば、

  1. Fine-tuning対象のベースモデルを選択
  2. S3バケットにトレーニングデータをアップロード
  3. Bedrock API経由でFine-tuningジョブを作成・管理
  4. 成果物として生成されるカスタムモデルを指定してConverse APIやInvokeModel APIで呼び出す

といった一連の流れのイメージが湧き、実装に向けた準備の見通しを立てやすくなりましたし、それを受けて調べていけば、単にConverse APIやInvokeModel APIを呼び出すだけの場合と、Fine-tuningまで行う場合で必要となる権限も具体的に理解が進みました。

  • 単なる推論実行だけなら、bedrock:InvokeModel権限を持つロールのみ付与すればよい
  • Fine-tuningを含める場合は、加えて bedrock:CreateModelCustomizationJob や bedrock:ListCustomModels 等の権限が必要

特に有意義だったのは、閉域環境(VPCエンドポイント)でのBedrock利用に関しても、実際にどのようにアーキテクチャを組むべきかの具体的なイメージを得ることができました。 用途にもよるんでしょうが、最大4つのVPCエンドポイントか。うーん、4つか。そうか4つかー。

以下、Use interface VPC endpoints (AWS PrivateLink) to create a private connection between your VPC and Amazon Bedrock - Amazon Bedrockより引用。

Category Endpoint prefix
Amazon Bedrock Control Plane API actions bedrock
Amazon Bedrock Runtime API actions bedrock-runtime
Amazon Bedrock Agents Build-time API actions bedrock-agent
Amazon Bedrock Agents Runtime API actions bedrock-agent-runtime

想定読者とおすすめポイント

書籍としては、生成AIに関する基本的な知識を持ち、実際にBedrockを用いたアプリケーション開発を検討している方に特におすすめなのかなと思います。読後すぐにプロダクションレベルのアプリケーションが構築できるわけではありませんが、自身の目的に応じてどのような構成を取るべきかを検討するための、確かな足がかりを得ることができます。

僕は読んで良かった。

まとめ

この本を通じて、Bedrockの基本機能にとどまらず、Knowledge Bases、Agents、さらにはAuroraやStep FunctionsといったAWS各サービスとの連携まで、幅広く俯瞰することができました。

特に、Fine-tuningプロセスやIAM権限設計、閉域環境での利用構成について、具体的なAWS上の運用イメージが持てたことは大きな収穫でした。これによって、Bedrockを単にAPI呼び出しで使うだけでなく、目的に応じた設計や運用の全体像を自分の中で組み立てていける感触を得ることができました。

もちろん、本書を読んだだけで即座にプロダクションレベルの生成AIアプリケーションが作れるわけではありません。しかし、公式ドキュメントや追加リファレンスを読み解きながら、より深い理解を積み重ねていくための確かな基盤を築くことができたと思います。

Bedrockや生成AI関連のAWSサービスを実践的に活用していきたいと考えている方には、有益な一冊だと思います。