理系学生日記

おまえはいつまで学生気分なのか

ブラック・スワン (上)

まるで小説であるかのようなタイトルですが、不確実性科学の研究者による、エッセイにも似た読み物でした。一時期たいへんな話題に上っていたので、ご存知の方も多いかもですね。
一言で言えば、読んでてスゴく頭が疲れる本でした。

長い間、白鳥というのは「白い」ものしかいないと信じられてきました。しかし、「黒い」白鳥の発見によって、そんな常識、概念というのは遥か彼方に消し飛びます。著者であるタレブは、この本の中で、ブラックスワンを以下のように定義しています。

  1. 過去を振り返っても、そんなことが起こるかもしれないとはっきり示すことは何もない。つまり異常であること。
  2. いざ経験すると、とても大きな衝撃があること。
  3. 異常であるにも関わらず、人間は生まれついての性質で、それが起こってから適当な説明をでっちあげたり、予測が可能だったことにしてしまうこと。

黒い白鳥こそがその後の未来に大きな影響を与えるにもかかわらず、人はその黒い白鳥を予測できません。考えようともできません。周りにもきっとありますよね。異常系こそが大きな影響を与えるにも関わらず、生起確率が低いという理由で完全にそれを無視して構築された現実モデルなんてのが。そういったモデルは黒い白鳥によって容易に崩壊するのですが、そのモデルを考えた人はきっとこう思うのです「では次は、その異常系を考慮に入れよう」。そして次の黒い白鳥を見逃すわけで。

この黒い白鳥が起こる原因を、タレブは人間の限界、能力的な問題によるものであると書いています。
人間には自分の持つ知識と経験の中から、物事の裏付けとなる事柄をさがし、あたかもそれが証拠であるように考える習性(追認バイアス)を持っています。例えば、白い白鳥しか見ないのは「黒い白鳥がいる証拠はない」だけの話にも関わらず、「黒い白鳥がいない証拠」のように思い込んでしまったりします。
また、人間は、要約し、単純化し、事実の次元を落とすという性質(プラトン化)も持っています。異なる事実と事実を、無理にでも自分に都合のよい因果の鎖で繋げようとします。そしてその鎖がない物事は覚えることさえできません。

こういった人間の習性こそが、黒い白鳥を現実のものにします。
起こったこと、経験したことを心配し、起こるかもしれないが起こらなかったことは心配しません。知っている事柄、脈略のある知識、具体的な事象には目を向けますが、不確実な事柄、起こるかどうか予想もつかない事柄は異常なほどに過少評価します。こういったところで黒い白鳥が生まれます。

こうやってこの本の内容をまとめるだけで、自分がこの本をプラトン化しているような印象があります。いや実際にプラトン化してしまっているのだと思います。どこまでの自分の考えが信じられるのか、世の中の情報の何を信じれば良いのか、分からなくなるような本です。1 ページ 1 ページが面白く、そして最後まで着地点が見えません。