理系学生日記

おまえはいつまで学生気分なのか

宇宙を織りなすもの(下)

図書館からの返却期限ギリギリで読了。
ブライアン・グリーンが空間とは、時間とは何かを著した 2 巻構成の下巻です。上巻については宇宙を織りなすもの(上) - 理系学生日記で書きましたが、下巻は宇宙の原初、そして現代物理学の課題についてといった内容でした。

ISBN:978-4-7942-1701-1:detail

  1. ビッグバン直後
  2. ビッグバンとインフレーション
  3. 夜空に残るインフレーションの痕跡
  4. 宇宙は「ひも」でできているか
  5. 宇宙は「ブレーン」のなかにあるか
  6. 実験と観測による挑戦
  7. テレポートとタイムマシン
  8. 時空は本当に宇宙の基本構造か

ビッグバン理論は宇宙論で必ず言及される理論ですが、これは宇宙のはじまりを説明する理論ではありません。これは、宇宙の進化を説明する理論であり、ビッグバン理論における時刻ゼロ、つまり「なぜビッグバン(大爆発)が起きたのか」という説明はされていないわけです。
なぜ爆発が発生したのか、それを説明する理論がインフレーション理論です。注意する点としては、インフレーション理論も宇宙の始まりは説明しません。というか、宇宙が存在していたことを前提としています。ここでいう宇宙は、(大爆発による膨張前なので)今より遥かに小さいですが。

過冷却ヒッグス場(インフラトン場)

ヒッグス場は次のような形をしているとされています(Wikipedia の"自発的対称性の乱れ"の項目からの引用なので、形だけ参考に)。
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/3/3e/Spontaneous_symmetry_breaking.jpg

大爆発のトリガとなるのは、ヒッグス場の過冷却です。本来は上図に示すような形の場の起伏に従って、まるでビー玉のように下へ下へと転がり最下点で安定になります。しかし、ここでは、ちょうど一番上の点でビー玉が止まっていたとしましょう。ここでのビー玉は、そのときのヒッグス場の値の模倣です。このままビー玉が安定していれば何も特に起こらないのですが、ビー玉には量子ゆらぎが生じるため、ずっと安定というわけにはいきません。いつしか最上で安定していた状態から飛び出し、下に転げ落ちます。このプロセスは一瞬で、かつ、このときに生じるエネルギーは非常に大きいものになります。
これが爆発の正体で、このときのプロセスは斥力的重力を発生させ、宇宙のあらゆる部分がすさまじいスピードで遠ざかり、空間を膨張させたってかんじらしいです。

時間の矢

時間の矢については、最終的に非常に簡潔な説明でまとめられていました。グリーン曰く、"以上が、時間の矢に対して、現在の知識レベルで得られるもっとも完全な説明である" と。
以下、その引用になります。

エントロピーの高い、とくに変わったところのない初期宇宙のなかで、重さにして十キログラムほどの小さな空間が、ときたま起こることが予想される偶然のゆらぎにより、インフレーションが起こるための条件を満たし、ほんの一瞬で著しく膨張した。外向きの激しい膨張のために、空間は途方もない大きさに引き伸ばされて平らになった。激しい膨張が終わりに近づいたとき、インフラトン場は莫大な量に膨れ上がったエネルギーを放出した。そのエネルギーから大量の物質と放射とが生じ、宇宙をほぼ均一に満たした。インフラトンの斥力的重力が消えると、普通の引力的重力が支配的になった。そして、これまで見てきたように、引力的重力は、量子ゆらぎによって生じたわずかな不均一性をタネとして、物質を寄せ集めて銀河や恒星を作り上げ、やがて太陽、地球、そして太陽系のその他の惑星たちをはじめ、観測可能な宇宙に見られるさまざまな天体が生じた。太陽のエネルギーは比較的エントロピーが低いため、地球上では太陽エネルギーを利用してエントロピーの低い動植物が生じ、全体としてのエントロピーは熱や廃棄物という形でゆっくと増大した。

インフレーションによって引き伸ばされた宇宙空間は、エントロピーが低くて秩序の高い、均一で平らな状態になった。(中略) こうしてできた秩序の高い初期状態が、エントロピーのより高い状態へと宇宙が進化するための舞台を用意し、誰もが経験する時間の矢をもたらしたのだ。