理系学生日記

おまえはいつまで学生気分なのか

整数から整域・体へ

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イデアル

I\mathbb{Z}の空でない部分集合で、a,b\in I, x\in \mathbb{Z}\Rightarrow a+b, ax\in I という性質を持つとき、I\mathbb{Z}のイデアルと言う。

\mathbb{Z}のイデアルIはある整数d(\le 0)を用いてI=(d)と表される。

証明

Iの元が0だけのときは、I=(0)である。これ以外のとき、Iには正整数が含まれる。このとき、Iに含まれる最小の整数をdとする。\forall a\in Iについて、a=dq+r;\; 0\le r < dと表すことができる。ここで、a,d\in Iであるから、イデアルの定義からa+d(-q)=r\in I。ところが、dIに含まれる最小の整数であること、及び0 \le r < dより、r=0。つまり、a=dqであるから、a\in (d)。つまり、I\subset (d)
また、[d\in I]であるから、dx\in Iすなわち(d)\subset I。よってI=(d)

合同式

a,b\in \mathbb{Z}m\in \mathbb{N}とする。a-b\in (m)のとき、a\equiv b (\textrm{mod} m)と表し、a,bmを法として合同であるという。
この関係は同値関係である。

証明
  1. \forall a \in (m) について、a-a=0\in (m)。よって、a\equiv a\;(\textrm{mod} m)
  2. a\equiv b\;(\textrm{mod} m)\Rightarrow a-b\in (m)\Rightarrow \exists q\in \mathbb{Z}\;a-b=mq。故にb-a\equiv -mq \in (m)
  3. a\equiv b\;(\textrm{mod} m)、および b\equiv c\;(\textrm{mod} m) であるから、\exists q,r\in\mathbb{Z}\;a-b=mq, b-c=mr。よって、(a-b)+(b-c)=a-c=mq+mr=m(q+r)\in(m)

剰余類

整数全体の集合\mathbb{Z}を、m\in\mathbb{N}を法として互いに合同な数からなるm個の集合に分けることができる。これをC(0),C(1),\cdots,C(m-1)と表しmを法とした剰余類と言う。C(a)について、aを剰余類の代表元と言う。
mを法とした剰余類の集合を\mathbb{Z}/(m)と表す。

剰余環

\mathbb{Z}/(m)において

  • C(a)+C(b)=C(a+b)
  • C(a)-C(b)=C(a-b)
  • C(a)C(b)=C(ab)

と定めたとき、Z/(m)mを法とする剰余環と言う。

可換環

集合Rに対し、\forall a,b\in Rに対して

  1. (a+b)+c=a+(b+c), (ab)c=a(bc)
  2. a+b=b+a,ab=ba
  3. \forall a\in R\Rightarrow \exists 0\in R\;a+0=a
  4. \forall a\in R \exists x\in R\; a+x=0
  5. a(b+c)=ab+ac

が成り立つとき、このような集合Rを可換環という。0を零元と言う。

部分環

可換環Rの空でない部分集合Sa,b\in S\Rightarrow a+b\in S, a-b\in S, ab\in Sを満たすとき、SRの部分環という。さらに Rの部分環Ia\in I, x\in R\Rightarrow ax\in Iを満たすとき、IRのイデアルという。

d\in Rとするとき、(d)=\{dx\;x\in R\}dの生成する単項イデアルという。
イデアルIを基にして\forall a,b\in Ra\equiv b;\;(\textrm{mod} I)であることをa-b\in Iと定義すると、この関係はRの中の同値関係である。

証明
  1. a-a=0\in I
  2. a\equiv b \;(\textrm{mod} I)\Rightarrow (a-b)\in I-1\in Rをかけて (-1)(a-b)=b-a\in I
  3. a\equiv b \;(\textrm{mod} I),b\equiv c \;(\textrm{mod} I)とすると、(a-b)\in I, b-c\in I(a-b)+(b-c)=a-c\in I

剰余類・剰余環

a\in Rに同値なRの元の集合をC(a)と表し、aの属する剰余類と言う。
C(a)+C(b)=C(a+b),\;C(a)C(b)=C(ab)
と定める。C(a)全体の集合をR/Iで表すとき、R/Iはこの演算により環である。これをイデアルIによる剰余環という。

整域

\forall a,b\in R, a\ne 0, b\ne 0, ab=0を満たすとき、a,bRの零因子という。
単位元を持ち零因子を持たない可換環を整域と言う。整域では、ab=0\Rightarrow a=0またはb=0が成り立つ。

素イデアル

単位元を持つ環RのイデアルP\ne Rab\in P\Rightarrow a\in Pまたは b\in P を満たすとき、Pを素イデアルという。
イデアルPが素イデアルであるための必要十分条件は、剰余環R/Pが整域であることである。

証明

Pを素イデアルであるとする。R/Pについて、C(a)C(b)=C(0)とすると、C(ab)=C(0)であるから、ab\in Pとなる。Pは素イデアルであるから、a\in Pまたはb\in Pとなり、C(a)=0またはC(b)=0となる。

次に、剰余環R/Pが整域であるとする。このとき、
C(a)C(b)=C(ab)= C(0)\rightarrow C(a)=C(0)またはC(b)=0
\Leftrightarrow ab\equiv 0 (\textrm{mod} I) \rightarrow a\equiv 0 (\textrm{mod} I) または b\equiv 0 (\textrm{mod} I)
\Leftrightarrow ab\in I \rightarrow a\in I または b\in I

単位元1を持つ可換環Fにおいて、0でない任意の元aax=1となる元x\in Fを持つとき、Fを体という。xa^{-1}で表し、aの逆元と言う。

体は整域である。

証明

\forall a,b\in Fについてa\ne 0かつb\ne 0と仮定する。a,b\ne 0であるからそれぞれ逆元a^{-1},b^{-1}が存在する。(ab)(a^{-1}b^{-1})=1\ne 0であるから、a=0またはb=0

剰余体

Z/(p)を素数pを法とした剰余体という。Z/(p)p個の元を持つが、このように有限個数の元からなる体を有限体という。

極大イデアル

単位元を持たない可換環RRと異なるイデアルPが、P\subset Q\subset R*1となるイデアルQを持たないとき、Pを極大イデアルという。
Pが極大イデアルであることの必要十分条件は、R/Pが体であることである。

*1:真部分集合