理系学生日記

おまえはいつまで学生気分なのか

「エラスティックリーダーシップ -自己組織化チームの育て方-」を読んだ

「エラスティックリーダーシップ」を読みました。 前書きの言葉を借りれば、この本は、リーダーシップを取る立場を引き受けようと考えている人、あるいは、実際にリーダーシップを取る立場にいる人を対象にしていて、

  • 自分の仕事に行き詰まってしまっている人のための本
  • 初めてチームリーダーを担った人のための本

ということになっています。 リーダーシップ、リーダーシップと言われ続けてきた数年でしたが、個人的には結構な学びがありました。

エラスティックリーダーシップ ―自己組織化チームの育て方

エラスティックリーダーシップ ―自己組織化チームの育て方

  • 作者:Roy Osherove
  • 出版社/メーカー: オライリージャパン
  • 発売日: 2017/05/13
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

チームリーダーマニフェスト

まず最初に、チームリーダーのマニフェストが紹介されています。

f:id:kiririmode:20191231114917p:plain
Team Leader Manifesto - Take #4 — 5 Whys より引用

  • チームリーダーの目標は、チーム内の自己のスキルを自己組織化に至るまで継続的に成長させること
  • 幸せなチームは顧客と雇用主の両方を幸せにする。

そして、そのために必要なことは、

  • 全員が comfort zone にとどまるのではなく、自分自身とチームがより良くなるために挑戦していく
  • 特定のリーダーシップスタイルを押し付けるのではなく、必要に応じてリーダーシップのスタイルを変化させる
  • マシンとばかり向き合うのではなく、人とのやり取りに参加する

この本を手に取ることに決めたのは、「チームの自己組織化」とはどういう状態であるのかを知りたかったこと、そして、変化させるべきリーダーシップのスタイルについて知りたかったからでした。

自己組織化とはどういう状態か

アジャイル宣言の背後にある原則 において、自己組織化されたチームが出てくる節があります。

最良のアーキテクチャ・要求・設計は、自己組織的なチームから生み出されます。

僕自身の大学・大学院での研究テーマは、自己組織化した情報ネットワークとの振る舞いでした。全体の知識を持たない単純なノードが、どのようにしたらネットワークを構築できるのか、そしてその特徴は何なのか。 それらについては Google Scholarあたりを確認していただければ良いのですが、では一体ここで述べられている「自己組織化したチーム」とはどういうものなのか。

この本で述べられている自己組織化したチームの定義は、以下でした。

意思決定の機会や生産的に前進する際に、リーダーであるあなたから独立して機能するチーム。

チームはもはやリーダーの手を離れ、チーム全員がリーダーに頼ることなく自分たちの問題を解決する方法を学んでいる状態です。 課題はたくさんあるし、これからも出てくる。でも、それらに対してチームの個々人が向かい合い、対策を考え、実行に移すことができるチーム。そういうチーム像がこの本では語られており、そのためにはリーダーにどういう振る舞いが必要なのか、それが説明されています。

このチーム像はぼくが思う「自己組織化したチーム」とは若干齟齬があるようにも思うのですが、まだそこをきちんと文章化できていません。 一方で、ここに記述されている状態は確かにチームの一つの理想形ではあると思うし、チームをそこに到達させるためのリーダーの振る舞いは、非常に参考になるものでした。

チームのフェーズと、各フェーズで取るべきリーダーシップ

「自己組織化モード」と呼ばれるチームの状態以外に、2つの状態があるとこの本では説明しています。そして、それぞれに応じたリーダーシップの形があると。

  1. サバイバルモード
  2. 学習モード

サバイバルモード

サバイバルモードは、チームが「学習するのに十分な時間がない状態」です。このチームにおいては、皆が残業してなんとか課題を片付けており、そこには「辛かった。でも、やり切った」というヒーローイズムが蔓延し、メンバーはそこから抜けられない中毒症状を持っています。あるある、こういう状態あるよね。

この状態からチームは一刻も早く抜け出さないといけない。そこで求められるリーダーシップ像は「指揮統制リーダーシップ」であり、

  • 属人化しても構わないので、チームの強みを発揮させる
  • チームの主導権を握る
  • 少なくともリーダーは 50% の時間はチームと同じ時間を過ごし、行き詰まっている箇所を検知し、チームが生産的な水準に達するまで誘導する

といった事が必要です。このフェーズにおけるチームには、「自己組織化」できるほどの力がないので、リーダー自身が、チームの課題を解決すること。そして、チームにはゆとり時間を創出するための行動を行うこと (ステークホルダー等とも調整して、チームが行ったコミットメントを取り消していくこと)。

結構刺さったのは、以下のような言葉です。

  • 船が沈もうとしている時に、船長は会議を開かない。そんな時、船長は命令するものだ
  • サバイバルモードの間は、チームに長時間の作業を依頼するのであれば、あなたが最後に退出する人でなければならない

理想的ではないけれど、まずはリーダーがメンバの手を取り主導する。その苦しみをともに味わう。そういうリーダーシップを取っていかなければ、チームはこのサバイバルモードでとどまる力学が働く。

学習モード

学習モードの定義は、チームが

ゆとり時間を新しいスキルの集中的訓練に使っている状態

です。ここで求められるリーダーシップ像は、「チームを安全地帯の外側に押し出す」ことなんだろうなと読み取りました。

安全地帯の外に出ると、チームも個人も、恐怖・不快感・不満を感じます。だからこそ、安全地帯 (comfort zone) に留まろうとする力学が働きます。リーダーは、敢えてその安心・安全な地帯からチームを外に連れ出し、学びを獲得させる必要がある。そうしなければチームは成長していかない。この連れ出した先を、書籍の中では「谷」と呼んでいますが、まさに「獅子は我が子を千尋の谷に落とす」姿が、このフェーズのチームに求められるリーダーシップなのだろうと思います。

チームがぶつかる課題に対して、「あなたはそれに関して何をするつもりですか」 と問いかけ、コミットメント言語で、各自の具体的な行動を求めていく。達成できなかったときには wikipedia:認知的不協和 を作り出し、達成できる方向に誘導していく。それによりチームに学びを作り出し、「意思決定の機会や生産的に前進する際に、リーダーであるあなたから独立して機能するチーム」に成長させていく。

自分の持っていたリーダー像は、どちらかというと「指揮統制リーダーシップ」の方でしたが、チームが成長していく過程で、だんだんとサーバント・リーダーシップに変化していくのだろうな、そんな印象をもちました。

伊藤直也さんの問いかけ

書籍はそんな進行を見せるのですが、最後のエッセイとして位置づけられた伊藤直也さんの「チームが良くなれば事業やプロダクトが良くなるというのは常に成立する方程式なのか」という問いかけがまた見事で。

  • チームが良い状態に慣れば、自分が良きリーダーになれば物事がうまくいくというのは「いい兄貴」にとっては悪魔の誘惑
  • ソフトウェア開発チームのリーダーやマネージャーの重要なアチーブメントは、チームビルディングではなく、事業やプロダクトの成果。だから、正しい問題にフォーカスせよ。

いい兄貴問題、正しい問題にフォーカスせよ、どちらも以下の記事によくまとめられています。

https://getnews.jp/archives/1734166

  • いい兄貴問題:
    • チームを任されたときに、ついついいい兄貴になって細かいことや雑用、面倒なことを引き受けてしまい、プロダクトや事業のことができなくなり、ビジョンの提示や意思決定ができなくなるという問題

  • 正しい問題にフォーカスせよ:
    • やるべきことは何なのかをはっきりさせるということが、当たり前ですが実は一番大事です。やらなくても良いことのためにプロセスを良くしても意味はないですから。それをせずにチームビルディングやプロセス改善に邁進するのは、プロセスばかりに注目して問題に注目していないということになります。

チームビルディングが今やるべきことであればやれば良い。ただ、その問題設定は果たして正しいのか。

「エラスティックリーダーシップ」という書籍の中で、最後に問われたその命題に頭を殴られる感覚でした。

イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」

イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」

  • 作者:安宅和人
  • 出版社/メーカー: 英治出版
  • 発売日: 2010/11/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)